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「へそくりを貯めてた理由?そんなの…己の欲望を満たす以外に何があるんだ?」
「貪欲野郎はお前やろがッ!あれはなぁ!お前が依頼の度にぶち壊す公共物の修復に宛お思て貯めた大事な金やったんや!
ただ呼吸して生きとる羽鳥は知らんかもしれんが修復催促の電話が山程来とるんやで!?」
「ああ……それなら…」
僕のヒートぶりを見てもムカつく程に涼しいその態度は一切崩さぬまま、羽鳥は懐から幾つかの封筒を取り出して床に放った。
そして訝しげに眉を寄せてそれらを見遣る僕の頭上から、信じ難い言葉が降ってくる。
「返事が来てたぞ。『有難うございました』ッてな」
「な!?」
どういう事だ!?
驚愕に染まる僕を忌ま忌ましげに見下していた羽鳥は、不敵な笑みを浮かべて衝撃の告白を淡々と発して見せた。
「だから。全部払っといてやったんだよ。弁償代」
「払ッ……!?嘘ぉ!?」
破壊した張本人である彼から『払っといてやった』という発言は如何なモノかと思うが、しかし羽鳥がそんな気の回し方を知っていたとは、正直驚く他何も出来ない。
一一……いや…待てよ?
「払った言うたって…どうせ僕のへそくりからやろがい」
やはり彼の厚意なんざを素直に信用する事は出来ない。
僕は眼鏡の奥から覗く翡翠の双眸で羽鳥を睨み据えた。
すると、羽鳥は何処か不機嫌を含有させて顔をしかめる。
「馬鹿言うな。吉良のへそくりとやらは全てこれらの魔法具に費やした」
何とも偉そうに魔法具を掲げてさらりと言ってくれたが、それも馬鹿発言に変わりはないような。
だが羽鳥の言葉に嘘偽りは無いようだ。
皺だらけになった領収書を確かめれば、確かにあのへそくりを全て注ぎ込まなければ購入不可能な額に達している。
「せ…せやったら…羽鳥が…自分の金を…?」
微妙な半信半疑に襲われながら、僕は声を震わせて問う。
そんな僕を見下ろした羽鳥は、口許に余裕を感じさせる笑みを……いや、嘲りを含む笑みを添えた。
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