疵、或いは子供の我侭

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  助けて と 誰かがささやく 誰かが叫ぶ 泣きながら 訳の分からない声で 嘆く その声を聞きながら 僕はひとりで音楽を聴く イヤホンから 大音量の音の群れ 耳を塞いだ 洪水のようなベース音 理解も及ばぬ 複雑な旋律の奥で それでも 嘆く声は低く重なる 傷などなく 涙もなく 痛みだけがただ実体もなく 抉るように押し寄せる 可視化された言葉の意味と 荒波のようなわたしの心が ぶつかるように 疵をひろげて 「本当」の部分に チクリととげを刺す 夢は夢でしかなく 現実は現実でしかない そんな 当たり前の事実に わたしの心は悲鳴をあげる 或いは子供の我が侭のように ただ「助けて」を 繰り返している 理解と納得は 遠いところでかけ離れて 相容れぬダンスのように リズムをずらしくるくる躍り 或いは疵ついた膝のように 時の流れに立ち後れてゆく 無責任なわたしの心が 無感動な時間に遅れた 無意識の非難が掠めて 無秩序に否定が響いた 過分な呼吸の間から 鮮度の落ちた本気が零れ わたしはわたしの間から ただひたすらに 灰色の空を  
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