時の旅人

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  ああそうか、 ここには何もない。 壊れた時計が でたらめな時を刻み ぼくはぼくの命が どれだけ保つのかも知らない ちく たく ちく たく ちく たく 壊れた時計は 歩みを止めぬ どれだけ靴が 擦り切れようと 陽炎のような幻が 古ぼけたコンパスの 針を狂わせ やがてぼくは、 行き先を見失う。 羅針盤の役にたたない ただただ広がるこの海に ひとり 投げ出されたように 漂っている ただ 壊れた針だけは 規則すらない時を刻む。 未来も 過去も 真っ白な世界のなか 今だけが ぼくのここに とどまっているのだ 折れた時の柱の上で 道化師のように踊っている ぼくの目には 描かれた涙が 針の上には 渦巻いた時が さて、何もないここで、 ぼくは何をすればいい? 生きていればいいと 誰かが呟く 歌えばいいと 誰かが囁く 踊り続けろと 誰かが命ずる ぼくはぼくの行き先さえ 失ったままで この靴底を 磨り減らしてゆくのだろう 時の狭間で 旅人のうたうアリアよ  
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