『普通』ではない世界

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学園長の言葉の節々にちりばれられた、子供でもなければ信じない『魔術』、だが皇は、今なら信じられる気がした。 「百合瀬君は、伝説とか魔術を……すぐに信じられる?」 「え……」 とは言え、なんの前振りもなく言われたら答えられない。 唐突に伝説や魔術を信じるかと言われたら、やはり『普通』は信じない。今は信じてもいいけど。 「はい……今なら信じられると思いますけど、今までは信じてませんでしたからね……幽霊とか魔法みたいなのは……」 皇は正直にその問いを返す。 学園長は笑みを含めた顔で返答。 「皇君は素直でいい子ね。『普通』で信じていたら逆に退いちゃうとこだったわ」 良かった、信じてなくて。もし調子乗って言って本当に嫌われでもしたら最悪だったよ、僕。トラウマとして残るよ、永久に。 「でもね、皇君。簡潔に言うと、ここは伝説や童話にされた生物……神獣、精霊。妄想と一蹴された魔術、魔法薬……それらを教えるのがこの学園」 学園長は一気に喋る。 「はい。分かってます」 頷き理解していることを伝えるが。 「う~ん……でも、その場の決意だけじゃあねぉ………。あ、そだ」 皇が図星を突かれた、と思っていると学園長は徐に立ち上がり鷹須先生に けんちゃん♪ と言った時の茶目っ気のある表情があった。 「やっぱりここはカ・ラ・ダで分かってもらおうかな……♪」 学園長の神秘たる淡い目が……ギュピィンと、肉食獣が獲物を見つけたが如く、鋭く嫌な光を帯びる。 ――――SIGNAL RED ――野生の勘 アラート 学園長の言葉を聞いて、皇はいくつもの身の危険を教えるために、身体に鳴り響く警告音を聞いた気がした。昔、不良に絡まれた時以上の俊敏さで身を翻す。 「逃がさない! けんちゃん捕まえて!」 「まず、けんちゃんと呼ぶのを止めて下さいよ……」 鷹須は小言で文句を言いながらも、皇を後ろから猫掴みで捕まえる。 「嫌です! まだ死にたくありません! 意味分からない事されて死にたくありません!」 皇は必死に鷹須に押さえられながら、がむしゃらに手足を振り回す。 「安心しろ百合瀬! 死にはしないし怪我もしない! ……心の方は分からんが」 鷹須先生が最後に呟いた一言を聞いて、皇は全身の血の気が引くのを感じた。 ついでに、自分の命運が尽きたのも、嫌々分からされた気がした。
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