ただそれだけで

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 あれ、ここはどこだろう? さっきまで僕は何をしてたんだろう。やばい、何も思い出せない。 「おい、おい!」  誰かが呼んでる。どこかで聞いたことある声だなあ……。 「おい、遠家!」  名前を呼ばれてはっとした。気が付いて辺りを見回してみると、そこはいつも僕が使っている学校の階段の踊り場で、たくさんの人だかりができていた。  僕は状況を理解できないまま、名前を呼んでいた声の主、築山孝に目を向ける。 「あ、孝。なんだこれは? なんの騒ぎ?」  呆けている僕を見て、孝が溜め息をつく。 「お前……自分が階段から落ちたのわかってねえのか?」  孝は呆れたような感じに見えたが、その表情には安堵感が含まれていた。 「大丈夫か?」 「あ、うん。そりゃもちろん」  落ちたことを覚えていない上に痛みも忘れているらしい。
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