悪夢

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その人物が口を開いた気配はない。 だが暗闇の中を冷たく低い男の声が響く。 「私…は…柊、杏奈…」 正常に機能しない口を開け必死に言葉を紡ぐ。 ―――アラアラ… ワスレテルノネェ… 別の声が聞こえ、はっと振り返ると、クスクスと女の嘲弄する耳障りな笑い声が聞こえる。 声は聞こえるが姿は何処にもない。 「何なの!?誰なのよ!!」 イライラしながら声のほうを振り向く。 「私の夢に勝手に出てこないでよ!!これ以上私を混乱させないで!!」 杏奈は男に向かって叫ぶ。 ―――オマエノユメデハナイ…ワタシノユメデモアル ―――ソウ、ワタシタチノユメデモアルノヨ 「訳わかんないこと言わないでよ…」 ―――モウスグヨ… モウスグワカルワ 「もうすぐ…?一体何の事…?」 尋ねるもそれに対する答えはない。 ――――ドコマデイコウトモワタシカラノガレルスベハナイ ―――オマエハワタシノ……… 「なに??」 その続きは杏奈の耳には届かなかった。そこまでで突然目が覚めたからだ。
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