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一緒にいる、という前から変わらない一瞬の連鎖のなかに身を置いているとしても、お互いの気持ちの味付けは、幼友達と恋人とではかなり違う。
「ね、秋良」
「はいはい」
「私たち将来何してるかな」
「オレは……そうだな、課長あたりに昇進してて、お前はそれを陰ながら支える妻なんて、どう」
「ばかでしょ」
「ひどくねーか」
「……悪くないけど」
「素直じゃないね」
「分かってるじゃん」
風が桜の枝を揺らして、より多くの花びらが散った。のばした手に一枚が偶然乗っかって、私はそれをそっと握った。
すぎていく一瞬があと何十年もつづいて、その先っぽ、金婚式を迎える私たちがいるといい。
散っていく一瞬が降り積もって思い出になって、遠い未来にそれをふりかえる時には、そばにあなたがいますように。そしたら私は聞いてみたい、今日すぎていった一瞬のこと。
「ねえ、どうしてあの時キスしたの?」
END.
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