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珠子は今、迷っていた。
(言うべきだろうか、それとも…)
珠子は高校のテニス部のキャプテンで、今大きな問題を抱えていた。
今まで部活を支えてきた高2のメンバーの一人、トモがいきなり部活を辞めたいと言い出したのだ。
薄々感づいてはいた。
部活に出て来る日数が日に日に減ってきて、トモは笑わなくなった。
春休み間近のある日にかかって来た一本の電話。
『辞めたい、の』
『‥え?』
トモからだった。
『部活。私の勝手な我が儘なんだけど。もう…』
嫌になっちゃったんだ、と。
彼女は受話器の向こうで呟くように言っていた。
『じゃあ、来年の入部届けは、出さなくても、いいよ?』とぎれとぎれに紡いだことばに安心したようにトモが返す。
『いいよって言ってくれて、何か軽くなった』
『ありがとう』
珠子は泣いていた。
私たちの今までって何、とか。
なんで、とか。
アタマで考えてたことばはちっとも姿を見せなかった。そのことに驚いて泣いていたのかもしれない。
多分もうそんなことすら考えられないくらいに追い詰められていたんだろう。
『他のメンバーには、自分で伝えるから』
そのことばを珠子は信じていた。裏切らないで欲しかった。(今日、言うのかな)
電話の翌日、どぎまぎしながらことばを待っていた。
その日には何も言わなかった。
二日たった。
三日たち、四日たち、一週間が過ぎた。
(…最後も、裏切るの?)
遂に春休みに入ってしまった。
当然のように毎日ある部活にも、トモが姿を現す事などなく日々は過ぎていった。
『私のCD持ってる?』
そんなメールが届いたのは、ちょうど部活が休みの日の昼下がり。
『あっ、ごめん!』
『実はそれが今週中に必要なんだ💦
郵便で送ってくれん?』
『わかった✋』
結局一度も聞かなかったトモのCDを郵便の保護パックに入れて、宛先を書く。
『江夏 トモ様』
書き終わってふっと思い付いた。
メールや電話では聞き辛いから、これにことばを乗せて行ってもらったらどうか…?
『いつ、あのこと言うの?』
…このことばに気付くだろうか。
あの電話の日からもう二週間は経っているし‥。
どうしよう。
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