ある少年の記憶

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闇に呑まれてゆく身体を必死に引きずりだそうと試みる。 「手を離せ…」 離してなるものかといっそう手に力を込めた。 「離すんだ」 辺りは暴風が吹き荒れ、家や木々をなぎ倒し、目の前に広がるブラックホールへと吸い込まれてゆく。 いくら手足に力を込めてもジリジリと闇の方へと引かれるばかりで、このままでは二人とも闇の餌食になってしまうのは必至だった。 「離せ…」 少年は決して青年の手を離そうとはしなかった。 あの闇に一度呑まれてしまえば決して出られはしないのだから。 「お前は生きろ、この世界で……」 青年の言葉と同時に右手に痛みが走る。見れば細いナイフが少年の手の甲に突き刺さっていた。
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