1606人が本棚に入れています
本棚に追加
そこから皆は、何人かずつに別れて出口になりそうな場所を探した。
麻耶と彰太は一階、
弘毅、むつみ、耀子は二階を探すことにした。
まだ倒れている梨花とそれを見ている賢祐は、一階のあの部屋で待っていることにした。
賢祐は梨花をソファーに寝かすと、辺りを見回した。
懐中電灯の光だけで様子はよくわからないが、室内の異様さには気付いていた。
ーまだ人の暮らしているような屋敷…
どの家具も、まるで掃除されているようにピカピカなのだ。
埃一つない。
賢祐はふと思いついたように、さっき彼女の凝視していたパンに手を伸ばした。
ーやはり変だ……
まだふわふわだし、黴も生えてない。
両面を見てみるが、それ以外に変な所はなかった。
彼はパンを置くと、さっきむつみが放り投げたバットを手に取った。
ー年季が入っているのか、ぼこぼこに凹んでいて、無数の傷。
そして周りにこびりついている、黒い汚れ。
そうしていると、背後から視線を感じた。
体を固くしてゆっくり振り返ると、目を覚ました梨花が彼を見つめていた。
彼は安心して梨花に向き直ると、優しく微笑んだ。
彼女は起き上がると、不思議そうに室内を見回し、自分がソファーに寝ていることに気がついた。
「あれ…私…」
「お前…自分が悲鳴あげて倒れたの覚えてるか?」
「…ううん…」彼女は小さく呟く。
彼はソファーの横に腰を下ろすと、「どうしたんだ?」と尋ねた。
彼女は脅えたような目でゆっくりと閉じられた扉を見つめると、口を開いた。
「…さっき…あそこにね、…誰か立ってたの……扉が閉まる直前に……私に向かって……笑ったんだ………それで私……あれ?それで…」
彼は扉を見るが、勿論そこには誰もいない。
彼女は、もしかしたら恐怖のあまり、幻覚を見たのかもしれないー
最初はそう思ったが、彼女の脅えた様子を見て、もしかしたら本物なんじゃないか…という考えも出てきた。
「…ごめんなさい…迷惑かけて」彼女は暗く呟く。
「俺は大丈夫だよ」明るく答える。
彼女の瞳には、心なしか彼がいつもより優しいように映っていた。
最初のコメントを投稿しよう!