1606人が本棚に入れています
本棚に追加
「…ちょっと、聞いてる?」
シャーペンの先で肩をつつかれ、やっと気付いた。
「あ…うん、聞いてるよ」
彼女はうろたえながら答えた。
「本当に?」
疑うように顔を覗きこみながら言う。彼女はわざと顔を背けると、窓の外を眺めながらヘラヘラと笑った。
「怪しい」
麻耶はいぶかしげに彼女の顔を見ながら腕を組んだ。
「…だから今夜、よろしくね」
彼女はきょとんとしながら麻耶を見つめる。
「…え?…」
ー何が?
麻耶は呆れたようにため息をつくと、彼女の肩にポンと手を置いた。
「やっぱ聞いてなかったのね…」
「…ご、ゴメン…」
麻耶は握っていたシャーペンで、机から出したメモ帳に何かサラサラと書くと、彼女に押し付けるように渡した。
「こ、れ!よろしくね」
そう言うと、急いで下校の支度を済ませると、麻耶は愛しい彼氏のもとへと走り去っていった。
彼女が渡されたメモ帳を見ると、
ー今夜8時にお化け屋敷集合!
忘れんなよ!
と乱暴な字で。そして紙の端に描かれた、お世辞にも上手いとは言えない、きっと自画像であろう少女の絵。
そのイラストを見て、思わず吹いてしまった。
廊下では麻耶と彼氏が腕を組みながら、楽しそうに喋っている。
彼女はそんな光景を羨ましそうに眺めながら、「いいなあ」と呟いた。
藤咲梨花、17歳の高校2年生。
彼氏はいない。…恋愛経験はナシ。
欲しいとは思うのだが、周りの女子よりも、そういうことにかなり鈍感なのだ。
ー私も欲しいなあ…
そんなことを考えながら廊下を見つめていたら、いつの間にか二人はいなくなっていた。
最初のコメントを投稿しよう!