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「俺さ…見たんだ…」
弘毅が突然口を開いた。
一斉に注目する。
彼の体は小さく震えていた。
「……坂口の死体の後ろでな…白いドレス着た…黒い長髪の女が……血まみれで立ってて……俺の方見て……にっと笑ってきたんだ…」
彼の震えは酷くなり、その場に崩れ落ちるように座り込んだ。
ー張り詰めた空気が流れる。
皆彼の話に真剣に聞き入っていた。
やがて彼はゆっくり顔を上げると、梨花を見上げて言った。
「…お前も……見たんだろ?」
「…」
「お前も彼奴を見たから……倒れたんだろ?」
「…うん」
ゆっくり頷く。
正直彼女は驚いていた。自分以外に、彼女の姿が見えていたとは知らなかった。
「…俺達…殺される」
彼はぽつりと呟いた。
そして頭を抱えて、「全員、あの女に殺される!」と喚き始めた。
皆、そんな彼の姿をただ見つめることしか出来なかった。
ここに入る時は梨花以外霊の存在なんて否定してたものの、ここにきて皆ようやく霊の存在を認めていた。
部屋には、彼の喚き声だけが響き渡っていた。
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