1606人が本棚に入れています
本棚に追加
そういえば、麻耶の話を全く聞いていない。
彼女によれば、お化け屋敷についてのウワサを語っていたらしいが。
ちなみにお化け屋敷というのは、
学校の裏の林の奥に入っていくとある、廃墟の洋館のことだ。
そこにはいくつもの恐ろしいウワサがあり、そう呼ばれるようになったらしい。
だが実際行った人も怪しいものを見たことがあると言う人はいなく、それはただの噂にとどまっていた。
そして今夜数人でお化け屋敷に行こうと麻耶が企画したのだ。
ーまあ正直、その中で何か出ると信じている人間もいなかったのだが。
彼女は窓の外をずっと眺めていて、麻耶の話が全く耳に入っていなかった。彼女は昔から、何かあるとすぐ自分の世界に入ってしまい、何も耳に入らなくなる。
ーまあ…でも噂話なんて聞いてなくてもいっか…
そんなことを考えながら、再び外に目をやる。
今日は早帰りなので、いつも運動部で賑わっている校庭にも誰もいない。
昇降口からは遅れて下校する生徒が、ぽつぽつと出てくる。
校庭に植えてある桜の木の蕾はすでに花を咲かせており、風が吹く度に花弁が舞い散る。
彼女はそんないかにも春らしい外の光景を、うっとりしたように眺めていた。
ときおり窓の隙間から入ってくる風からは、甘い香りが漂ってくる。
「何やってんだ?」
背後から突然声をかけられて、心臓が跳ね上がる。
「わっ」
思わず声を漏らし、びっくりした拍子に前の机を派手に倒してしまった。
「また妄想してたのかよー…」
そう言い教室に入ってきたのは、真っ直ぐでサラサラの茶髪をした、綺麗な顔立ちの少年だった。
彼は佐久間賢祐、彼女と小学校の時からの幼馴染みだ。
ルックスも良く運動神経も抜群で、女子からは絶大な人気を誇っている。
彼は倒れた机を面倒臭そうに戻すと、呆れたように「気を付けろよ」と言った。
「だ……だってびっくりしたんだもん」
「お前が自分の世界に入って周りを見てないだけだろ」そう言いクスクスと笑う。
彼女はそれを聞いて頬を膨らませると、悔しそうに彼を見上げた。
「自分の世界なんか入ってないもん」
「よく言うぜ」
教室に明るい笑い声が響く。
最初のコメントを投稿しよう!