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暗闇に紛れた、巨大な洋館を見上げる。
洋館の壁は全体的に薄黒くよごれ、蔦がたくさん這っている。
窓は埃で汚れて、中の様子が伺えない。
しかし廃墟となってしばらく経っている今でも、その立派な姿は綺麗に残っている。何故こんなに綺麗なのか、と思うくらい。
「さあ、皆揃ったことだし…入るか」
麻耶は元気にそう言うと、洋館に足を踏み入れた。
ーしかし、梨花は何か感じていた。
昼間にしか見たことがなく、この暗闇での不気味な雰囲気がそう感じさせるのかわからないが、とにかく何か……おぞましい何かが……この洋館を包んでいるように感じた。
ー何か中にある……入っては…
「…入っちゃ駄目…」
気付くと、それは言葉になって出ていた。皆は驚いたように、一斉に梨花を振り替える。
「何だよ、怖くなったのか?」
「安心しなよ、どうせ何もないんだし」
しかし皆は梨花の言葉には耳を貸そうとせず、どんどん中に吸い込まれていく。
ー駄目…
心臓の鼓動が早まり、冷や汗が出てくる。じっとりと全身を包み込む、恐怖。
やがて梨花の隣にいた賢祐は梨花の手を引くと、笑顔で「行くぞ」と言った。
しばらくしてから彼女はぎこちない笑みを見せ、「ごめん」と呟いてから足を踏み出した。
ー大丈夫。お化け屋敷の雰囲気に圧倒されてるだけ…
そう自分に言い聞かせる。
ーしかし、彼女は感じていた。
2階の窓から、何者かが突き刺さるような、恐ろしい視線で彼女を見つめていることを。
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