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洋館に入った瞬間、冷たい空気が体を包み込んで、思わず身震いして肩を抱く。
それと同時に、異臭が鼻をついた。何だか、黴の臭い。そしてそれに混じった、何かよくわからない臭い…
皆一斉に鼻をつまんだ。
「うわーくせぇえ!」
「鼻がもげるう」
口々に文句を言っていく。
しかし梨花はそんなことより、洋館の異様さに目を奪われた。
ここはすでに数年前に時が止まっているというのに、
まるで今でも、誰かが住んでいるような……
すでに死んだはずの洋館が、まだ生きている。
高級そうなソファーも、
天井から釣り下がるシャンデリアも、
テーブルも本棚も、
埃さえ被らずに、綺麗な形のまま残っている。
しかもテーブルの上には、一つのワイングラスが置かれている。中身は入っていた。…赤ワインだろうか。
その隣にある、小さな皿。その中にある、2枚のパン。
黴も生えず、まるで誰かがさっき出したかのような…
ーありえない。
梨花の足は、微かに震えていた。
出来ることなら、近付きたくなかった。
しかしそんな彼女の横をすり抜けて、むつみがテーブルに近付いていった。
そしてパンを躊躇いもなくつまみあげる。パンを不思議そうに眺めると、彰太に向かって「まだ食べれるよ」と嬉しそうに言った。
「んなもん誰が食うかよ」
むつみはいかにもそんな雰囲気で興奮してるのか、部屋を散策し始めた。
麻耶はそのパンにゆっくり近付くと、「気味悪う」と言ってつまみあげた。
「これ…まるで誰かが食べようとしてたみたい」
「そ…そうね…でも誰か肝試しに来た人の悪戯じゃない?」
梨花は無理に笑顔を作って答える。
麻耶は妙に納得したように頷くと、パンを皿に置いた。
ー…あれ?
梨花は見た。
パンの裏側に、真っ赤な何かが塗られているのを。
…ジャムだろうか。
梨花はそう考えると、ふうっと息を吐いた。
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