001 オジサン

6/9
前へ
/27ページ
次へ
食事を終えると、それぞれが自分の棟に戻る。 前原家では、一人一人が自分の棟を持っていて、食事の時だけ毎度それぞれの棟の中央の棟に集まるのだ。 「お帰りなさいませ」 棟に戻れば、中にいる世話係やなどが、整列して迎いれてくれる。 これも毎日のこと。 「ただいま」 そう言いながら微笑むと、みんなが幸せそうな顔をする。 この和やかな雰囲気が好きだ。 「裕也様、お客様がお待ちです」 勉強部屋にでも入ろうかと思って廊下に足を踏み入れると、世話人の中でも一番の長がそう言ってきた。 「客?」 「はい、着物を用意しましたのであちらへ」 「ありがとうございます」 (………誰だろうか) とりあえず、着物に着替えて客間に行く。 前原家を訪れるものは、殆どが国の要人か、どこかの社長。 だから、客に会う時は正装として家紋の入った着物を着る。 「失礼します」 そう言って障子をすっと開ければ、中には赤い着物を着た女の人がいた。 赤い着物に真っ黒な長い髪。 顔は下を向いていて見えない。 怪談話にでもでてきそうな艶やかな容姿に少し驚きながらも、その人の正面に腰かける。 「どちら様でしょうか?」 そう聞くと、その人は顔を上げた。 (うわっ、綺麗)
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

67人が本棚に入れています
本棚に追加