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食事を終えると、それぞれが自分の棟に戻る。
前原家では、一人一人が自分の棟を持っていて、食事の時だけ毎度それぞれの棟の中央の棟に集まるのだ。
「お帰りなさいませ」
棟に戻れば、中にいる世話係やなどが、整列して迎いれてくれる。
これも毎日のこと。
「ただいま」
そう言いながら微笑むと、みんなが幸せそうな顔をする。
この和やかな雰囲気が好きだ。
「裕也様、お客様がお待ちです」
勉強部屋にでも入ろうかと思って廊下に足を踏み入れると、世話人の中でも一番の長がそう言ってきた。
「客?」
「はい、着物を用意しましたのであちらへ」
「ありがとうございます」
(………誰だろうか)
とりあえず、着物に着替えて客間に行く。
前原家を訪れるものは、殆どが国の要人か、どこかの社長。
だから、客に会う時は正装として家紋の入った着物を着る。
「失礼します」
そう言って障子をすっと開ければ、中には赤い着物を着た女の人がいた。
赤い着物に真っ黒な長い髪。
顔は下を向いていて見えない。
怪談話にでもでてきそうな艶やかな容姿に少し驚きながらも、その人の正面に腰かける。
「どちら様でしょうか?」
そう聞くと、その人は顔を上げた。
(うわっ、綺麗)
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