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心地いいくらいに、乾いた音がグラウンドに響く。拳がやけに温かい。
――――なんだ、血か。
呉羽は無意識のまま、絵梨奈の前に立つ不良に向かって拳を振るっていた。
視界の角に映る絵梨奈の彼氏を睨みつけ、また不良に目線を戻す。
絵梨奈の彼氏……ねぇ。
まだ闘えそうじゃないか。
「……ねぇアンタ、」
「……?」
「そう君、絵梨奈の彼氏クンだよな?」
不思議そうな目で呉羽を見、絵梨奈の彼氏は自分の殴られた頬を抑えながら静かに頷いた。
「どうせ彼女の前だから格好つけたかったんだろ?この状況からすると先に喧嘩売ったのはアンタの方みたいだけど……」
「…………」
何も言わない。どうやら図星のようだ。
呉羽の目前の不良達は呆然と一部始終を見ている。しかし殴られた手間、怒りが出てくるのは時間の問題。
ここは早急に話を付ける必要がある。
「まぁどっちにしろあたしには関係のない話だ……別にこの場を無視して帰ってもいい所だったが、絵梨奈が危ないみたいなんでな、こうして駆けつけた訳だが――――」
アンタ、なんで倒れてんの?
目も合わせず、呉羽は冷たく言い放った。しかしその瞳には、燃える何かがある。
その瞳に反応したのは、他校の不良達だった。ハッと意識を取り戻し、呉羽に殴りかかった。
「……ッてめぇ!女のくせによくも殴って!!!!」
体格の良い男の、堅い拳が呉羽目指して飛んでくる。いくら女といえど、自分を殴った相手を許す気はないらしい――――不良は手加減というものを知らないようだ。
しかし呉羽は、目の前に向かってくる拳には全く興味を示さない。
静かに唇を動かした。
「――…女一人守れねぇんなら、自分の側に置いたりすんじゃねぇ、よ……!」
パシ、と、片手で拳を受け止める呉羽。
甘いんだよ、ウスノロ。
と綺麗に口元が弧を描いたが、目だけは笑っていなかった。
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