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「やってしまった……」
呉羽に残ったのは、拳に付いた血と、後悔だけだった。
普通の女子高生ならこんな無茶な喧嘩はしないだろう……全てが順調に進んでいた学園生活は、一日もしないで終止符を打つ。
絵梨奈とその彼氏は無傷で助かったようだが、それよりも呉羽は後悔の念に駆られていた。
どうしようどうしようどうしよう。
入学式初日で転校ですかあたしそんな偉業為し遂げちゃいますかあたし!!!!
ギギギと軋んだ音を立てながら振り返ると、呆然と呉羽を見つめる4つの瞳。
「……絵梨奈、ごめん大丈夫?」
恐る恐る、腰を抜かした彼女に手を差しのべると、意外な返事が返ってきた。
「うん……呉羽って、凄いのね! 格闘技でもやってた!?」
「え、あ、ああうん! た、たしなむ程度に」
目をキラキラさせ、呉羽の手をギュッと握ろうとするがそれは本人によって「血、付くから……」と阻まれた。
なんとかヤクザだと気付かれなかった事に安堵したのか、さっきまでの形相が嘘のようににこやかな表情へと一転する。
が。
「呉羽さん……感動しました!!」
と、さっきまで情けない姿を晒していた絵梨奈の彼氏が立ち上がった。
「すみませんでした……」
と呉羽に向かって深々と頭を下げるその彼氏は、凄く滑稽で。
仕方なく呉羽はある指示を出す。
「じゃあ、強くなるまで絵梨奈には近づくな」
「えっ…………」
「もっと強くなってから絵梨奈を迎えに来い。それまで絵梨奈が浮気しなけりゃ、また付き合えるさ」
絵梨奈もこんな見栄っ張りの彼氏、御免だろう。踵を返して帰る呉羽に、チョコチョコと付いていった。
その後ろ姿を、屋上から見つめる一つの影が。
「ふぅん……鳥羽にも面白い奴が来たな」
漆黒の髪が風に優雅になびく。腕を組み、その少年は切れ長の目を更に細めた。
――――とても満足そうに。
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