君の声

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「いえいえ。どういたしまして」   と、僕も体をしっかりと向けて頭を下げた。  頭を上げると、彼女は部室の中を興味深そうにじろじろと眺めていた。 「ね、ね。ここ、演劇部かなにか?」 「そのまさに演劇部だよ」   へー、と興味あるのか無いのかよく分からない返事をし、彼女の目は僕の前にある台本へと移った。 「あ、そっか。文化祭だもんね。今日晴れ舞台なんだ。いつからいつから? 見に行きたいんだけど」   気にしないようにしていたところをズバリと突かれ、軽く気落ちしてしまったけど、彼女に悪気は無いので怒りは出てこない。 「はは……それがさ、主役の女の子が風邪で声が出なくなっちゃってさ。中止になっちゃったんだ」   彼女は口に手を当てて少し大げさに驚いた後、ばつが悪そうな笑顔で謝った。   気にしないで、と言って、もう一度窓の外を見下ろすと、やっぱりそこには白い煙がおいしそうだった。
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