冬の夜

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会社で知り合ったその人は母より十才くらい年上で、熊のような大男(に、私には思えた)だけどとても優しそうな人だった。 ただその人には妻子があり、お互いに不倫だったわけだ。 その人と母はドライブに行くと言っていた。 もちろんそんな事は口が裂けても義父には言えない。 ばれたら母が殺される、それくらい義父の怒りが恐くて、そのまま私は母を探しにあてもなくとぼとぼと歩きつづけるしかなかった。 義父にこうして追い出された時に私が向かう場所はいくつかあった。 本屋に行ってまんがを立ち読みするとか おもちゃ屋さんに入っていろんなおもちゃを見てまわるとか でもその頃は今みたいな大型店舗は近くになく小さいお店ばかりなので、長居しているとお店の人に 「買わないんならさっさと帰れ」 と追い出されてしまう。 それから同じクラスのてるちゃんの家とアッコちゃんの家。 どちらもお母さんやおばあちゃんがとても優しくて、家を追い出された私をかわいそうに、と言ってご飯まで食べさせてくれたりした。 てもその日は夜遅くになっていたし、まだこの前助けてもらってから日が浅かったので行きづらくて頼らないつもりでいた。
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