男爵と虹のクジラ

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むかしむかし…… ずっとむかし…… この世界には虹のクジラがいました。 この虹のクジラは海を泳ぎません。 空を泳ぐように飛ぶのです。 クジラにはヒレの代わりに大きな白い羽が付いていました。 クジラが空を泳ぐと雨が降り、後には大きな虹が架かるのです。 クジラを見た東の国のお姫様はこう言いました。 「ピンクで大きなクジラが空を泳いでいったわ!」 クジラを見た西の国の船乗りはこう言いました。 「雲みたいに大きくて白い羽が付いてたぞ!」 クジラを見た南の国の商人はこう言いました。 「ヤツが泳いだ後には大きな虹が出来たぞ!」 クジラを見てない北の国の王様はこう言いました。 「そんなクジラがいるものか!」 王様と同じ、クジラを見てない人たちも口を揃えて言いました。 「そうだ! そんなクジラいるものか! 見たというやつらはウソツキだ!」 そうしていつしか誰もクジラを見なくなりました。 そうです。 心の優しいクジラはウソツキ呼ばわりされる人たちが出ないように姿を消したのです。 けれどクジラも泳いだ後の虹だけは消せませんでした。 ある日その話を聞いた東でも、西でも、南でも、北でもない国の男爵がこう言いました。 「私はその虹のクジラが見てみたい! あの空の虹を追っていけばきっと虹のクジラを見つけられるだろう!」 男爵はこうして虹のクジラを探す旅に出たのでした。 「はい。今はこれでおしまいよ」 「え~っ!? 続きが聞きたいよ! ママ、早く続きを描いてよ!」 「そうね。あなたがいい子にしてたら描いてあげるわ」 「うん! わかった! ねぇ今日、魔女を見たよ! ママが絵本に描いてくれたやつにそっくりでね! でね! しわくちゃで長い鼻がこんな風に曲がっててね!」 「それで?」 「空飛ぶ箒でお庭を掃除してたの。でね、僕を見て『アップルパイはいかが?』って言ったんだ!」 「それ、お隣のおばぁちゃんじゃない?」 「違うよ! ホントに魔女なんだよ!」 「わかってるわ。さあ、良い子はベットに入る時間よ」 子守歌を歌い、額に優しくキスをする。 この幸せが続けばいいと願いながら……
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