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舞台は闇に包まれ、静寂が支配していた……
観客席から見えるのは金で美しい装飾のなされた真紅の幕。
その幕が上がる。
弾けるような音で一人の少女がライトに照らし出された。
少女は純白のドレスに包まれ、美しいセミロングの髪が照明の光で淡く虹色に輝いた。
幼げで美しい顔、ブラウンの瞳がその幼い美しさを引き立てている。
皆、彼女が現れるのを待ち焦がれていたように大きな拍手を送る。
彼女が口を開くと同時に舞台に静けさが帰ってきた。
「私、リリっていいます。私にはやりたい事がありません。夢も無く、自分の在る意味すら見つけられませんでした……」
その声は悲しげだったが、静かな舞台に美しく響いた。
リリは俯きながら舞台の上を憂鬱そうに行ったり来たりする。
観客たちはその優雅さに目を離すことが出来なかった。そして彼女のその仕草一つ一つに息を呑んだ……
少女は舞台の中心に立つと顔を上げ、真っ直ぐに観客を見つめる。
その瞳が光を受け、煌めいた。
「そう、彼と出会うまでは……」
証明が落とされ、舞台は再び暗闇に包まれた。
再び証明が舞台を照らし出す。
そこに立っていたのは少女ではなくシルクハットをかぶり、黒のタキシードに身を包んだ男だった。
ウェーブのかかった漆黒の髪を靡かせ悠々と進み出る。
照らし出された顔は端正、かつ紳士的で、口周りにはよく手入れされたヒゲを蓄えている。
舞台の中心に立つと男は観客へ向け、仰々しく宮廷風のお辞儀をする。
「紳士淑女の皆様方、我らが晴れの舞台によくぞおいでくださいました。
これより皆様に語り聞かせるは一人の少女とこの私との運命的な出会い…… どうぞ、最後までお楽しみください!」
さらに深々とお辞儀をすると舞台はきらびやかに照らし出さる。
「では、これより開演でございます!」
男の言葉を合図に舞台裏からピエロやダンサー達が飛び出す。
まるでパレードのように愉快な音楽に合わせピエロやダンサーたちが所狭しと舞い踊る。
皆が踊りながら舞台から去ると軽やかな足取りで舞台端に移動し、男は再度、宮廷風のお辞儀をする。
一際大きな拍手が巻き起こり、男は舞台裏へと去った。
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