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再び眠りから覚めた時、少年は幾分か体が楽になったような気がした。
前に感じた熱っぽさや吐き気が消えている。
しかし、全身のあちこちには鈍痛を感じた。
左腕と頭にずきずきと痛みが響いていた。
頭に触れようと上げた右腕が思ったより重く、手首を額に乗せた。
伸びた灰色の前髪に触れると、頭に巻かれた包帯に気づいた。
白い天井を見つめる。
辺りは変わらず静かだった。
「目が覚めたか」
声が聞こえた。
男と女の声が入り混じったような不思議な声だ。
首をかしげて辺りを見回したが、誰もいない。
ぶうん、と機械か何かの電源がつく音がした。
右側の壁に大きな画面がはめ込まれて、それに薄青い光が灯る。
数度明滅した後、その画面は鮮やかな青い色になり、さらに淡い水色の霞みのようなものが映りだした。
その霞みは、次第に人間の顔のような影を形作っていった。
「怪我の治療は順調だ」
その影が喋った。
「あ……」
少年は驚きと戸惑いでなんと言っていいかわからない。
しばらく反応を待って、影は再び話かけた。
「……海岸で倒れていた君を自動清掃ロボットが発見した。君は重傷を負っていた。よって保護し、治療を施した」
「……」
停止していた少年の思考がゆっくりと回復する。
記憶が曖昧ではっきりとしないが、どうやら自分は助けられたらしい。
おずおずと話しかけた。
「ここは……どこですか」
「ここはある島の小さな国だ」
「しま……」
「そうだ。君はこの国の海岸に漂着したのだろう」
前の記憶を思い返そうとする。
ぼんやりとした記憶が、少年の中で次第に形を持ち始めてきた。
見慣れた街の風景。
鼻を突く何かが焼け焦げた匂い。
飛び込んだ海の、身を切るような冷たさと痛み。
不意に鮮明に記憶が戻った。
(……そうだ。僕は逃げた)
同時に、覚えのあるどす黒く濁った暗い感情も呼び覚まされる。
「少年、名はなんと言う」
画面の影が訊いた。
少年は答えた。
「レク」
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