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五月。私はやっと美術部の入部を決意した。本当は、面倒だったから部活は入りたくなかった。けど、部活参加は強制だった。内申にも影響するから、と担任に言われ渋々の入部だった。
絵を描くのは好きだった。特にデザインが得意で、それなりの賞も授与されてきた。
だが、私は絵で食べるつもりは更々なかった。好きな時に好きなだけ描くことが出来れば。それだけで満足だった。
最初は渋々でも、そのうちに部活も楽しくなっていた。油絵の具特有の匂いを嗅ぐ度。何とも言えない恍惚感があった。どんなに嫌がっても、結局は此処に帰ってきてしまう。
部活も充実し、クラス内でも馴染んできた頃。ほんの小さな違和感が芽生えていた。
ちょくちょく、同じ女性から電話がきていたのだ。父と同じ職場で働いているとのことで、何度か取り次いだことがある。私以外の家族も同様のことがあったらしい。しかし、母には全くそんなことはなかった。代わりに母だけには無言電話が続いていた。
同じ女性からの電話。
「もしもし、○○さんの御宅ですか?お父さんに変わってもらえますか?」
女性は絶対に名前を言わなかった。そして、その電話の後。必ず、父は出かけていた。
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