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「くっ……」   それは数分だったか数時間だったか。時間の感覚が麻痺してしまうほどの張りつめた空気の中で、一瞬の隙も見せないように緊張を保ったまま竜矢は考えていた。   「(…どうする?)」   即ち、どうすれば背後の「化物」から逃げられるのか、ただそれだけを。   「(奴の機動力がこっちより上なら馬鹿正直に逃げても的になるだけ……かといって辺りに遮蔽物になるような物も無い……)」   いつ攻撃を喰らうか、という状況の中、ただ生きる為だけに竜矢は思考を巡らせる。   「……!」   考えられる全ての手を自らの脳内でシミュレートし、その全てが失敗だという答えに行き着いた時、竜矢の視界に何かが映った。   「なんだ………?」   背後への警戒は保ったまま、炎皇のメインカメラを最大望遠にする。   「!!」   そしてメインカメラが捉えた「それ」を見た瞬間、竜矢は自分の口の端が僅かに歪んでいることが分かった。   「新兵じゃないんだからさ……」   竜矢は自嘲するように呟いた。何故なら、竜矢の顔に浮かんだ表情は、この「戦場」から生きて帰ることが出来ると分かった時の新兵が見せる笑顔、そのものだったからだ。         ◆   「………コレデ……オワリ……?」   漆黒のアヴェレージは自らの前に立つ紅蓮の巨人を見つめ、そう呟いた。   「…マダ……アキラメナイヨネ……?」   紅蓮の巨人が自分がわざと見える位置に隠しておいた「それ」を見付けたことに気付いた漆黒のアヴェレージの姿は、何故か満足そうに笑っているように見えた。         ◆   「……よし」   慎重に先程見付けた「それ」を使った方法をシミュレートし終わると、竜矢は小さく深呼吸をした。   「見てろよ…化物め」   そう呟くと、竜矢はグリップを握る手に力を込めた。 ここからは一瞬のミスが命取りになるのだ。ほんの僅かでも油断をすれば、それが直接自らの命を奪う刃となって襲い掛かってくる。   「……いくぞっ!!」   そして、竜矢は自らの命を救う為に「それ」に向かって炎皇を疾走らせた。
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