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紅蓮のブレーダーが去り、その場に取り残されたアヴェレージからは、敵意を剥き出しにした呟きが外部スピーカーを通して漏れ聞こえてきた。
『試軍……貴様らがそうやってデカイ態度でいられるのも今の内だ……』
◆
─【試軍第三番格納庫】
ついさっきまでまるで人間のような動きを見せていた紅蓮のブレーダーは、今では機体固定用のハンガーにその身体を固定され、胸部装甲の一部、台形を逆さまにしたような形のコックピットハッチが開かれていた。
そして、開かれたコックピットハッチの奥からこの紅蓮のブレーダーのパイロットが現れた。
「……ふぅ…」
機体と同じ紅蓮の強化スーツに身を包み、頭部保護と機体情報の表示ディスプレイを兼ねたヘッドギアを鬱陶しそうに外した彼の名は層崎 竜矢(ソウザキ リュウヤ)。若干22歳にしてこの紅蓮のブレーダー、『炎皇(エンオウ)』を駆る試軍のエースパイロットである。
「…ったく、なんで俺が……」
溜め息をつきながら降下用のケーブルに掴まり『炎皇』から降りる竜矢を、よく通る澄んだ声が迎えた。
「リュウヤ!お疲れ様。どうだった?正規軍のオジサマ方は?」
朗らかに言いつつもどことなく嫌味を含んだ声で竜矢を迎えたのは、いつもの整備班ではなく竜矢のパートナーであるフォルナ・R・ストラティスだった。
彼女もまた、試軍でも三本指に入るほどの腕を持つパイロットだ。しかし、フォルナの機体は接近戦を重視して設計されたブレーダーとは違い、長距離砲撃戦と電子戦に重点を置き設計された、型式番号〔Type-05.08〕"キャノミラージュ"を自らのパーソナルカラーであるオレンジに染めた、『燈皇(ヒオウ)』と呼ばれている機体である。
「なんでお前がここに居るかな…お前、確か今日は久々の休みだから街に行くって……」
『炎皇』から格納庫の床へ降り立った竜矢は、ヘッドギアを抱えていない左手で額を押さえながら溜め息をついた。
「えぇ、行ってきたわよ?リュウヤのお弁当の材料買いにね♪」
そんな竜矢の様子を気にした風もなくフォルナは両手で大事そうに抱えていた弁当箱を差し出した。
まるで彫像のような美しさを持つフォルナが少し恥じらいながら弁当箱を差し出す様は、普通ならば暫し見惚れてしまうだろう。
しかし、彼女と数年来の付き合いの竜矢は、先程より大きな溜め息をつくだけだった。
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