12人が本棚に入れています
本棚に追加
「………妙に静かだな…」
出撃した竜矢の第一声がそれだった。
『こっちのセンサーにも反応は無いわ。……どう考えても不自然よね…』
竜矢より少し遅れてやってきたフォルナも怪訝そうな声で呟いた。
確かに、竜矢達が今立っている場所は、竜矢達が出撃する直前まで第一種警戒体制……つまり、『戦場』であったとは思えないほど静まり返っていたのだ。
「……俺は周囲を見てくる。お前はCPに連絡して、状況を聞いてみてくれ」
『──了解………CP、こちらブラスト2。現在の状況が知りた──』
フォルナが通信を始めたのを確認すると、竜矢は背後の武装保持用のアームにマウントされた特殊強化金属性の大剣、『レックス』を装備し、ブレーダー特有の腿部に装備された大型ブースターで跳躍した。
◆
「…………」
基地から出撃してきた竜矢達を、静かに見下ろす影があった。その姿は正規軍のアヴェレージに酷似しているが、細部が違う。
機動性を重視し装甲が削られたアヴェレージよりその機体の姿は細く、その装甲はより攻撃的に、刀を思わせるほど鋭く研ぎ澄まされていた。
「……」
そして最もこの機体の異質さを際立てているのが、装甲からメインカメラまで、その全てが黒く塗られていることである。
まるで影のようなその機体は、黒く塗り潰され本来なら何も見えないはずのメインカメラで、竜矢達を…いや、より正確には竜矢だけを見詰めていた。
「…リュ……ウヤ……」
突如、その禍々しいまでに攻撃的な機体からまだ幼い子供の声が聞こえてきた。
「……今…………てあげる……」
そして、再度声が聞こえた次の瞬間、漆黒のアヴェレージはつい先程まで立っていた場所から姿を消した。
………果たして、その時の言葉はなんであったか、誰も知らない。
漆黒のアヴェレージが竜矢とフォルナの戦いに大きな哀しみを与え続けることになることも、今はまだ、誰も知らない。
最初のコメントを投稿しよう!