シュレディンガーの猫とシャガールの人面犬

　はじめまして、アノマトラ・カーと申します。

　えっ？

　外国人か？ですって？・・・さて、どうなんでしょうか？

　私が生まれたところは、天魔河原（あめのまがはら）。

　現実の世界では、ありません。

　もっとも、天魔河原では、この世のことを現世（うつせみ）と云いますから、どちらが本当の世界なのかわかりません。

　いずれにしろ、私はこの世界、現世、うつせみの生まれではないのです。

　それと、私の名前ですが、これは私の個人名ではありません。

　天魔河原では、個人名というのはないのです。

　これは、強いて言えば、私の役職名、官位、身分を表す名称・・・みたいなものとでも言えばよいでしょうか。

　人の言葉で表現するのは難しいのですが、
天魔渡来官＝anomatora.karとするのが適当でしょう。

　日本語表記では、アノマトラ・カーとしておきましょう。

　読んで字の如く、「天魔河原（あめのまがはら）より渡り来たりし者」と言う意味です。

　ところで、私は今、ちょっとした事情があって、現世では大手をふって表を歩けないことになっているのです。

　でも、それもそんなに長い話では有りません。

　ほんのちょとの間だけです。　

　実は私、天魔河原で現世渡行官の登用試験を受け、渡行官に登用されたのですが、向こうで少し問題が発生したみたいなんです。

　つまり、私の不正、カンニングがバレちゃったんです。

　ですから、今私は、天魔河原政府に呼び出しを受けている最中。

　でも、出頭したりする気は毛頭有りません。

　ほんのちょとの間、行方をくらましていれば、そのうち時効が成立しちゃいます。

　そうすれば、晴れて堂々と天魔渡来官としての仕事を続けられる。

　官位を剥奪されることもありません。

　でも、その間、天魔河原政府からのお手当てを取りに行くわけにもいきません。