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どうしてだろうか。ソフィアは肩を押さえながら、目の前の青年を見つめた。
彼は、足からかなり出血しているというのに、ニヤリと笑っていた。それは、恐ろしい姿だったが、ソフィアはそれを哀しく思った。
きっと、未来は明るいと信じていた。必ず、共に生きられると疑わなかった。
なのに、これはどうしたことだろう。互いに剣を向けあって、もう後戻りは出来なくなって、そして、もうすぐどちらかが死ぬ。
「どうして、私達は剣を向けあっているのでしょう?」
ガメンナは低く笑い声を立てた。
「俺たちが、共に生きられるはずがなかった。ただ、それだけだ」
嘲笑うガメンナを見ても、ソフィアは願っていた。誰かが進み出てきて、ガメンナを許す、また共に生きようという、ありもしない夢を。
しかし、現実は残酷で。聞こえるのは、ガメンナの死を望む声と、ソフィアを駆り立てようとする声。
ソフィアはそれに逆らうように、剣を持つ腕を力なく下ろした。
「私は……」
笑い続けるガメンナの表情が、刹那、哀しげに歪んだ。
「もう、遅いさ」
ガメンナがソフィアの懐に飛び込んで来る。反射的にソフィアは剣を構えた。
二人は、触れるか触れないほど近寄った。ソフィアを見て、ガメンナは悲しげに微笑んだ。
「殺してくれ。俺は、お前を殺せないから」
そう言って、ガメンナはソフィアから距離を取った。
ガメンナは雄叫びを上げながら、魔力を溜めている。聞こえないと知りつつも、ソフィアは囁いた。
「私なら、殺せると……?」
涙が溢れるのがわかった。これしか道がないと知りながら、ソフィアは哀しみを隠すことは出来なかった。
ソフィアは剣を構え直し、ガメンナの心臓を目掛けて、真っ直ぐ突き刺した。
ガメンナは抗う振りをして、ソフィアにだけ聞こえる声で囁いた。
「ごめん」
二人の影が重なり、ガメンナが仰け反った。ガメンナが光に包まれると、ソフィアも輝いた。
周りから悲鳴が上がる。消え行く中で、二人はしっかりと抱き合った。
もう二度と、離れるものか。もう、こんなことは嫌だ。
二人は最期の口付けを交わした。
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