一球のボール

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転がってきたボールを拾い上げて恵介が聞いてきた。 「バスケ、楽しいか?」 少し笑いながら聞いてくるその口調と笑い方は、どこか意地悪だった。 直輝は、兄もまたボール同様、嘲笑っているように思えた。 「……思ってたのと違う。」 少しふてくされている直輝。 「そりゃ誰だって最初から上手い人なんかほとんどいないんだよ。上手かったら俺達が毎日やってる練習なんて無意味になっちゃうよ。なぁ、恵介。」 鷹義は、性格上優しい人なのだが、直輝を多少子供扱いするところがあまり好きではなかった。だけど、根本はいい人なので、初めて会った時、すぐになつくことが出来たのだ。 「そうさ。最初から上手い人なんかほんの一握り程度なんだよ。上手くないから練習する。練習して、うまくなっていくから嬉しいんだよ!」 優しく、そして何よりバスケが好きな兄だからこそこんなに笑顔に言えるのだろう。
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