一人の兵卒

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 今は中国といわれるこの地、この地ではるか時代を逆上ったエン州のさる小川のほとり― そこでは小柄な男が上半身裸で重さ60斤はあろうかという大刀を片手で軽々と振り回していた。見れば、彼の額には一筋の汗も見当たらない。また、彼がここに持ってきた大刀は、初めは刃のところどころに錆のような汚れがつき、どう見てもその辺の浪人が持つようなボロ刀としか思えない代物であったが、一度彼が川の流れに刀を差し入れるやいなや、無数の汚れは見る間に川の流れに溶け込み、見れば彼が持つ刀は、先の刀とは似ても似つかぬ名刀へと変わっていた。 その小柄ながらも引き締まった肉体から考えて、歳は30もいってないだろう。だが、そのみすぼらしい身なりからは唯の雑兵としか思えない。
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