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霞む視界が捉えた断末魔の映像。
それは沈みかけの半月を背に塀の上に立つ、お凛の忍び装束姿だった。
二十四
同刻、北町奉行所。
「精が出るな、佐々木」
当直で泊まり込みの佐々木に、曲淵が声を掛ける。
「これは、お奉行。ご苦労様です」
正座のまま曲淵に体を向け、頭を下げる。
「何の書類を纏めておる?」
後ろ手に腕を組んで、曲淵は覗き込んだ。
「は。先の不忍池に浮かんだ水死体の案件で御座います」
返事を返した佐々木は、姿勢を戻して再び机に向かう。
「そうか、……。しかしそれは、貴様の肝煎りで打ち切りになった筈だが……!?」
答えを聞くや否や、一切の気配を断ち佐々木の背後に片膝を付く。
「お奉行?」
足音もせず、気配も感じなくなった事に不審さを覚えた佐々木。
もう一度、振り返る。
「お奉行!?」
その瞬間、視界に飛び込んだ物。
それは白い粉末で、佐々木の視力を一時的に奪った。
直後。
万力で締め上げるような痛みを、喉元に感じる佐々木。
助けを呼ぼうにも上司の与力や同僚、部下の同心は居ない。
声が出たにしろ奉行役宅までは、叫び声すら届かないであろう。
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