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何処に座ろからと前、後ろと目を配る。バスの中には、運転手と彼をあわせても6~7人。
(今日はやけに空いてるな……)
それ以外はなんら変わらないいつもの車内。
彼は入り口右手真ん中辺りの座席に座り、持っていた鞄を膝の上に起き、窓の外をただ、ぼーっと覘いていた。
バスはその間もいつもの通りを、いつもの交差点を進んでいく。
しかし彼は気がついた。
街が妙に静まりかえっていることに。
いつもならこの時間帯、通勤する人々で騒がしいはずなのだが……道を行き交う車も、それらしき歩行者すら見えない。
その異常を確かめるべく、バスの中を改めて見直した。
すると、さっきまで乗っていたはずの、乗客が一人も居ないのだ。
このバスの運転手さえも。
「――おや、貴方も此方側のヒトでしたか」
その声に慌てて後ろを振り返る。
するとそこには20代後半位に見えるだろうか
不適な笑みを浮かべる男の姿があった。
「こんなに近くに居たのに全く気配を感じませんでしたよ……」
状況が未だ飲み込めないでただただ、その場でうろたえる
男は顎に手を宛て小首をかしげる
「……もしや、とは思いましたが此方の思い過ごしだったようですね…
これだけ隙を見せるということは、どちらにせよ……芽は早くに摘む方が良い」
その男の笑みの中に冷たさを感じた
その眼孔は鋭く、今の彼はまさに蛇に睨まれた蛙とでもいったところか。
身体がこわばる…瞬きさえも許されない。
これ以上、隙を見せれば殺される。
そう思ったその刹那
一瞬、世界が暗闇に満たされた。
――死んだのだろうか
恐る恐る一度、瞬きをすると、何事も無かったかのように、周りには人がいて、バスの外を見ると歩行者がいる。
ハッと、後ろの席を見るとさっきの男はおらず、白髪の老人が一人寝ているだけだった。
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