始まりの朝

5/8
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/33ページ
何処に座ろからと前、後ろと目を配る。バスの中には、運転手と彼をあわせても6~7人。 (今日はやけに空いてるな……) それ以外はなんら変わらないいつもの車内。 彼は入り口右手真ん中辺りの座席に座り、持っていた鞄を膝の上に起き、窓の外をただ、ぼーっと覘いていた。 バスはその間もいつもの通りを、いつもの交差点を進んでいく。 しかし彼は気がついた。 街が妙に静まりかえっていることに。 いつもならこの時間帯、通勤する人々で騒がしいはずなのだが……道を行き交う車も、それらしき歩行者すら見えない。 その異常を確かめるべく、バスの中を改めて見直した。 すると、さっきまで乗っていたはずの、乗客が一人も居ないのだ。 このバスの運転手さえも。 「――おや、貴方も此方側のヒトでしたか」 その声に慌てて後ろを振り返る。 するとそこには20代後半位に見えるだろうか 不適な笑みを浮かべる男の姿があった。 「こんなに近くに居たのに全く気配を感じませんでしたよ……」 状況が未だ飲み込めないでただただ、その場でうろたえる 男は顎に手を宛て小首をかしげる 「……もしや、とは思いましたが此方の思い過ごしだったようですね… これだけ隙を見せるということは、どちらにせよ……芽は早くに摘む方が良い」 その男の笑みの中に冷たさを感じた その眼孔は鋭く、今の彼はまさに蛇に睨まれた蛙とでもいったところか。 身体がこわばる…瞬きさえも許されない。 これ以上、隙を見せれば殺される。 そう思ったその刹那 一瞬、世界が暗闇に満たされた。 ――死んだのだろうか 恐る恐る一度、瞬きをすると、何事も無かったかのように、周りには人がいて、バスの外を見ると歩行者がいる。 ハッと、後ろの席を見るとさっきの男はおらず、白髪の老人が一人寝ているだけだった。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!