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彼女の指から奏でだされた旋律はとてもなめらかで、息を呑むくらいきれいな音だった。
伴奏として、主役のみんなの声を引き立たせるような音だった。
敵わない、そう思った。
いつの間にか彼女は弾き終わっていて、自分の席に戻っていた。
たくさんの拍手と一緒に。
可愛くて、人気者で、誰にでも優しくて。おまけに何でもできる。それでいて、先生のお気に入りで。
それでも、ピアノだけは勝てると思っていた。
彼女の方が伴奏者に相応しいのは、誰が見ても一目瞭然なのに。
「えっと」
先生は気まずそうに何かを言おうとしている。
ごめんなさい。
伴奏がしたいなんて、嘘。
別にならなくてもいい。
ただ、先生に見てほしかった。少し自信があったピアノで、先生に誉めてもらいたかった。
先生が好きだから。
それだけ、なの。
「あ、あの、やっぱりわたし、降ります。」
そう言った声は、少し震えていた。
「わかった、」
我が儘でごめんなさい。やっぱりには無理だった。彼女より勝るモノがほしくて、そしたらみてくれる、だなんて。そんなことないのに。
でも、少しだけ。
今ほんの少し、止めて欲しかったなって思った。
喉の辺りが苦しくなるのがわかった。痛くて痛くて、全部からっぽになったみたい。
ごめんなさい先生、
好、き。
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