第一章『過去』

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嘘をつく事は昔から得意だった。 これは俺の唯一の特技である。 あの時もそうだった。 「翔くんはいつ帰ってくるの?」 「分かんない」 「そっか…。また会えるよね」 「うん。また会えるよ蜜柑ちゃん」 蜜柑は元気にしているだろうか? あれ以来一度も顔を見てないからな。 それと、あの時は蜜柑を悲しませたくなかったから“また会えるよ”と嘘をついたのを思い出した。 でも、まさか本当に帰ってくるなんて…。 俺は昔住んでいた赤原島に行くための船に乗っていた。 俺以外には誰も乗っていない。 (六年ぶりか…懐かしいな) 俺は今年で高校一年になる。 高校生活を赤原島で過ごそうと思い、一人でこの赤原島にやってきた。 もちろん、婆さんは反対したけど、何度も俺が理由を言ったら賛成してくれた。 あの時は口が裂けるかと思ったよ…。 「お兄さん島が見えてきたよ」 俺は立ち上がって島を見た。
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