第一章「レッド・クリスマス」

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 さて、すっかり人気の無くなってしまった住宅地を適当にそぞろ歩きながら、俺はまた色々と考えていた。  さっき過去を思い出したせいか、湧き水のようにあの頃の出来事が浮かび出て来る。  あれが、最初の殺人だったんだよな。  どうしようもない苦境の底で、自分を慰める為に誰かを憎み、その事で辛うじて生きる意味を持っていた。  それは復讐。  理不尽に殺された家族を贖う為の殺戮。  そして殺した。  親戚の家族が全員集まる期を見計らって、全員血祭り、根こそぎ殺した。  父も。  母も。  娘も。  息子も。  爺も。  婆も。  一家惨殺、残らず殺した。    切って、    刻んで、    切り裂いて、    死山血河に沈めた。     それしかないと思った。  それで終わると思った。  そして、終わった。  確かに、終わった。  でも終わらなかった。  憎む対象を失って、何もかもを無くしたことに気がついた。
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