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第一節
死とは永遠の謎だ。
なぜなら、今生きている人間は、死んだ経験がないからだ。
「死」とは常に他者のものだ。
金と権力があればなんでも手に入ることができる世の中で、唯一手に入らないもの。
それが、他者の死なのだ。
どれだけ多くの死に接しようが、死という壁の向こうになにがあるのか、生きている人間には知りようがない。
知れば、二度と戻っては来れないのだから………。
そんな事を考えながら、俺は下通りアーケードを上通りアーケードに向けて歩いていた。
師走の街の賑わいが、人事のように虚しく響いてくる。
まるで網膜にフィルターでも貼ってあるかのように現実感がない。
大きなケーキを抱えた人達も、プレゼントを抱いている子供達も、肩を寄り添うようにして歩く恋人達も、舞台装置のようなイルミネーションも、毎年代わり映えしないクリスマスソングも、人間の喧騒も、その全てが、まるで自分がブラウン管の中から見ているみたいに希薄に感じられた。唯一、現実感があるのは、この身を切るような寒さだけだった。
ふと足を止めて、ビルのショーウィンドウを見やれば、昨日起こった……いや、ここ最近で連続する殺人事件のニュースが流れていた。
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