第一章「レッド・クリスマス」

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 熊本市街を後にした俺はそのまま、かつての地元に足を伸ばしていた。  目の前には木造平屋の一戸建てが、闇の中に佇んでいる。  玄関先に並べられている自転車や原付、庭先に張られたシート、物干し竿に犬小屋、空き家とは違い、人が住んでいる形跡はある。  だけど、まだ消灯するには早過ぎる時間帯だが、電気はついていない。周囲の民家には灯が点いていて時々、笑い声や生活音が聞こえてくるというのに。  つまり、この家は…… 「まだ、借り手はついてないんだな……」  無理もない。  無理心中のあった家なんかに、誰が好き好んで住みたがるのか。 「古家や、住民供の、夢の跡……ってか?」  閑静な住宅地の一画の奥張ったところにある生活感を残したままの借家。それはほんの数ヶ月前まで俺が家族と住んでいた家だった。  
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