第一章「レッド・クリスマス」

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 まだたまに警察の捜査があっているのか、それとも、ただ大家が放置しているだけなのか…こうやって見れば、ここがまだ俺の家のような錯覚を覚える。  半年前、俺の人生が終わった場所だ。  あの頃からだろう、記憶なんて曖昧で、日々はあまりにも空虚だ。時間は無意味に過ぎ去り、何も残さず何も生み出さない、連綿とした虚無の日々。  これは死人と同じだ。  思わず苦笑が漏れる。  死んだ者にしか、死の壁の先は判らない。  だけど、俺は知っている。知ってしまった。  生きながら死者の列に加わった俺は、既に死の壁の向こう側先を知ってしまったのだから。  死の壁の向こう側……それは「無」だ。
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