第一章「レッド・クリスマス」

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 何も無い。  何もかもが無い。  ただの「無」。  思い出も。  生前の軌跡も。  今まで積み上げて来たものも。  それらの全てが無に帰す。  それが「死」だ。  死ねば一つの世界が消滅すると言う。  それは事実だと思う。  なぜなら、自分の主観こそが、自分の世界なのだから。その自分が死ねば、世界は消滅して当然だ。  世界………大きい意味での世界は、確かに無くならないだろう。それこそ隕石が地球にでも落下して人類が滅びでもしない限りは。しかし、死ねばそこに干渉することは出来ないのだから、それは無いのと同義だ。  つまり、主観とは世界であり、世界とは日常なのだ。  それが、壊れた。  半年前のあの日に。  いや………家族が死んだ時点でなら、俺は辛うじて「生きていた」と呼べたかもしれない。
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