序章:月は総てを照らす

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    男の手が、まだ人間としての形を保った左手が、少女に伸びる。それからなんとか逃れようとするが、しかし最早身体の行き場所はない。 「もう君は…僕の物だ…」 うひひ、と声を押し殺すこともなく男は笑う。怯える少女を嘲笑うかのように。 目の前の男を直視していたくなくて、直視出来なくて。少女は固く目を瞑った。 しかし、いつまで待っても触れられた感がない。 時間にすればほんの数秒なのかも知れないが、少女にとっては数分間もそのまま待たされたような感覚。 不自然さにうっすら瞳を開くと、目の前の男は少女ではなく、彼女の上を見ていた。  
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