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いい内容なのか、悪い内容なのかもわからないから心底不安で、どう心の準備をすればいいのかわからなかった。
「失礼します。フェイローズ=アルタス、ただいま参りました」
扉の前で二、三度呼吸を整えると青年は高らかに声をあげた。
すると、人の背丈の数倍はありそうな巨大な扉が開いた。
ぎぎぃ、と重々しい音を立て開かれたその先には何メートルにも渡ってきらびやかな装飾が施された絨毯が敷かれている。
その絨毯の両側には等間隔で兵士が並んでいた。
絨毯の先には二段ほどの階段があり、その上のこれまた巨大で立派な王座に、王――御剣火燐は座っていた。
ふと、絨毯の左手の辺りに見慣れない、ローブを纏った人物がいる事に気付いた。
客人だろうか。
それにいつもより兵士の数も少ない。
「あぁ、よくきた」
火燐は左の肘掛けに肘を乗せ、指先をこめかみの辺りに当てている。
あまり機嫌がよくないようだった。
青年が長い絨毯の先まで歩きかしずくと、火燐は身を起こし、居住まいを正した。
火燐の表情は暗く、憂いを帯びていた。
若干疲れているようにも感じられる。
「月の国王が…亡くなられたそうだ…」
火燐は少し言いにくそうにその言葉を口にした。
「な!?月王陛下が?」
青年は驚きを隠せなかった。
確かに月王は老体ではあったが、王族は長命なのだ。
彼等の平均寿命は千年近くある。
死ぬとしても五十年は先の事だと思っていた。
「私も、近いうちに月の国に行こうと思っていたのだが……」
なんだか歯切れが悪い。
先ほどからしきりに溜め息ばかり吐いている。
「何か…問題がおありですか?」
青年が聞くと、火燐は室内の兵や護衛、大臣に至るまで全て退出させてからローブの人物に視線を投じた。
彼はフードを外し、青年に視線を向けると、恭しく頭を下げた。
「フェイローズ=アルタス騎士団長ですね?」
彼は再び頭を上げると青年に問うた。
「あぁ。無礼を承知で訪ねますが、貴殿は?」
男は、笑ったようだった。
最初はそれが微笑み程度の物だったが、次第に声を押し殺して笑いだした。
「自分が、何か致しましたでしょうか?」
軽い苛立ちを覚えて男に詰め寄る。
すると彼は謝罪するかのように両手のひらをあげた。
「…ふふっ…いや、申し訳ない。あまりにあなたが真面目な受け答えをするから」
その言葉に青年は目を丸くした。
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