第一章―旅立ち―

4/14
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
 真面目?  王の御前だ。これぐらい当然だろう。 「あまりからかわないでやってくれよ、久渚」  火燐が苦笑して続ける。 「フェイも、楽にしてくれ。でないとこの先続かないぞ」  兵士や部下がいなくなって気を緩めたのだろう。  火燐は先ほどよりずっと明るくなっている。 「紹介しよう、フェイ」  火燐は男の元に歩み寄ると、彼の肩に手を掛け青年――フェイに向かって言った。 「彼は久渚。月の国の大賢者だ」  紹介をうけて、久渚はフェイに向かって手を差し出した。 「久渚です。よろしくアルタス団長、いや、フェイでいいかな?」  久渚は無理矢理にフェイの手を両手で掴んで軽く上下に振った。  そして徐に彼の手を調べるように繁々と眺めた。 「どうだ久渚?なかなかいいだろう」  火燐が久渚の肩越しにフェイの手と久渚の顔を交互に見る。 「そうですね、筋肉の付きもいいですし、背丈もあります。実戦としてももちろん使えるんでしょ?」  最後の方を茶目っ気たっぷりに言うと、久渚はようやくフェイの手を放した。 「当たり前だ。何せ騎士団長だからな」  火燐は胸を張り、何故か誇らしげだった。  彼が誇る意味がまったくわからなかった。  騎士団長である自分を連れてきて、一体何のお披露目なのだろうか。  まさか他国のお偉方に見せる為だけに呼ばれた訳ではあるまい。 「ですよねぇ、しかも歴史上では最年少昇格だそうで。噂は兼々聞いてますよ。前団長の方に勝負を挑まれ返り討ちにしたとか、闇討ちして団長の座を奪ったとか、実は彼は親の仇で、殺すつもりだった、等々」  まるで笑い話でもするかのように久渚が言う。  実際、久渚は笑いながら話していた。 「全部大嘘ですっ!」  もっとも、フェイにとっては笑えない冗談だが。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!