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こんなに物騒な噂が立つほど、他国での自分の評価は悪いのだろうかと情けなくなる。
「で?この先とは一体何の事です?」
久渚の飄々とした態度も相まり、段々に苛付いてきて火燐を思いきり睨み付けて尋ねる。
一瞬王である事を忘れそうになったが、火燐は気にも止めていないようだった。
「あぁ、フェイ、その用件なんだがな」
火燐が懐から何かを取り出しそれを両手で弄るように裏返したり角度を変えたりしている。
よく見るとそれは手紙のようだった。
真っ黒な封筒で、表にも裏にも何も書いてない封筒。
何も、だ。
差出人所か、宛名すらも書いていない。
「同じ物が、月王陛下にも送られてきたそうだ」
一つ溜め息を吐くと、火燐は封筒の表面を見せるようにしてフェイに渡した。
「そして」
「そしてこの手紙を受け取って数日後、月王陛下は殺されたのです。俺の目の前で」
火燐の言葉を継いで、久渚が話しだした。
「殺され……た?」
なるほど、常に万全の体勢で護衛されている筈の王が亡くなったのはそういう訳か。
しかし、それでもまだ疑問は残る。
「誰に、殺せたと?」
その言葉に久渚が表情を変えずに口端をあげる。
笑ったのか怒ったのか、よくわからない表情だった。
「確かに」
そこで言葉を切ると、久渚は一度目を伏せた。
「確かに、王の身の保全というのは国の最優先事項です」
無機質な、眼鏡の奥の瞳には明らかな不快が滲み出ていた。
フェイには、その不快は、月王を殺した相手にと言うよりも、寧ろ自分自身に向けられた物のように感じられた。
「常に、です。常に王は守られている」
なのに殺された。
他ならぬ月の国の精鋭が守っていたのに。
その中には、自分もいたのに。
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