45人が本棚に入れています
本棚に追加
/108ページ
しばらくして笑いの発作が治まりかけた頃、僕は聞いた。
「どうして僕が、後ろに、いるって、わかっ…たの…?」
ダメだ、なんだかまたおかしくなって笑いがこみあげてくる。
「だってアナタ、そっと近づいてきてるつもりだったんだろうけど…ふ、ふふ」
彼女もまた、笑いにとり憑かれた。
「けど?」
「影が…丸見えよ」
そして二人顔を見合わせ、一瞬間があってのち、またお腹がよじれる程笑った。
ようやく二人落ち着きを取り戻し、そしてまたたくさんの事を話した。
彼女は僕の2つ年上である事。彼女もまた夏の間この町に来ている事。そして…あまり体が強くない事。昨日とは違い、彼女の事を少し知る事ができた。
そうしてまた、辺りは夕暮れ時が差し迫る。そろそろ帰らければ。
「僕、もう帰らなきゃ」
そう言う僕に、彼女はやはり微笑んで一言、うん、と言った。
「じゃあ…またね」
僕は言いながら立ち上がった。
「うん、じゃあ…あっ!そういえば…」
彼女は不意に何かに気付いた様子で言う。
「そういえば、なに?」
「私、アナタの名前聞いてない」
……うっかりしてた。まさかお互い名前も知らないままだったとは。
「なんて名前なの?」
そうして僕らはお互いの名前を知り、また一つ、歯車は、カチリと噛み合った──。
最初のコメントを投稿しよう!