大きな木の下で

6/6
45人が本棚に入れています
本棚に追加
/108ページ
 しばらくして笑いの発作が治まりかけた頃、僕は聞いた。 「どうして僕が、後ろに、いるって、わかっ…たの…?」 ダメだ、なんだかまたおかしくなって笑いがこみあげてくる。 「だってアナタ、そっと近づいてきてるつもりだったんだろうけど…ふ、ふふ」 彼女もまた、笑いにとり憑かれた。 「けど?」 「影が…丸見えよ」 そして二人顔を見合わせ、一瞬間があってのち、またお腹がよじれる程笑った。  ようやく二人落ち着きを取り戻し、そしてまたたくさんの事を話した。  彼女は僕の2つ年上である事。彼女もまた夏の間この町に来ている事。そして…あまり体が強くない事。昨日とは違い、彼女の事を少し知る事ができた。  そうしてまた、辺りは夕暮れ時が差し迫る。そろそろ帰らければ。 「僕、もう帰らなきゃ」 そう言う僕に、彼女はやはり微笑んで一言、うん、と言った。 「じゃあ…またね」 僕は言いながら立ち上がった。 「うん、じゃあ…あっ!そういえば…」 彼女は不意に何かに気付いた様子で言う。 「そういえば、なに?」 「私、アナタの名前聞いてない」 ……うっかりしてた。まさかお互い名前も知らないままだったとは。 「なんて名前なの?」  そうして僕らはお互いの名前を知り、また一つ、歯車は、カチリと噛み合った──。
/108ページ

最初のコメントを投稿しよう!