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ある日の昼下がり。
神尾家の居候、国崎往人は悩んでいた。
居間に捨て置かれた一冊のノート。
表紙には『絵日記』とだけ書かれていた。
‥以前、観鈴が言っていた自由課題とはこの事だろうか‥
それにしても、まるで小学生レベルの発想だ。
往人はそのノートに背を向けた。
が…
…
……
………
どうもその絵日記の中身が気になってしまう。
絵日記と言うくらいなのだから、日々の出来事が事細かに書かれているに違いない。
とすればだ。
毎日送り迎えをしている自分のことも必然的に書かれているはずで、どうかかれているか気になってしまう。
再び絵日記に目を落とす。
人として、やってはいけない。
やってはいけないが…
辺りを見回し、誰も居ないことを確認すると、その絵日記に手を掛けた。
「少しだけなら…」
パラパラとページをめくってみると、色鉛筆でかかれた絵が何枚か目に入った。
絵日記というくらいなのだから、絵を見て大体の内容が解りそうなものだが、その絵日記の絵はいまいち解らなかった。
「観鈴らしいな」
文章を読んでみるが…
『往人さんと海を見た』
『往人さんを起こした』
『往人さんのベーコンエッグに蝉が飛び込んだ』
…どれも1行で終わってしまう日記だった。
「日記か…これ?」
少し頭を抱えた。が、これは観鈴の絵日記であり、しかも盗み見ている。そんな俺が『こういう風に書け』なんてこと言えるわけもなかった。
だから、せめて…
ぱたむ、とノートを閉じ、往人は学校へと向かった。
校門前では、観鈴がこちらを見ながら笑顔で手を振っていた。
「往人さん♪」
こちらへ向かって走ってくる観鈴。
せめて今は、この笑顔がつづくように…
「観鈴、今日町を案内してくれ。まだ行ってないところがあるかもしれないしな」
「?いいよ。にはは。お散歩だぁ」
今はただ
少しの楽しい思い出を
あのノートに描けるように…
「よし、行くか」
「うん。にはは。」
楽しい思い出を君に。
少しでも絵日記に楽しかった軌跡が残せるように…
~Fin~
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