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俺は駆け寄り、ソイツの腕を掴んでひき止める事に成功した。
驚いた顔で、俺を見つめるソイツを、抱き締めたい衝動に駈られる。
だけど、なんとか理性を総動員させ、その衝動を押さえ込むことに成功した。
「高校生が援助交際とは、感心できませんね」
意識して口調を変える。
ソイツを怯えさせないために。
こんな風に、誰かを思いやるのはどれぐらい振りだろうな。
「そんな事してません。それより腕離してよ」
意志の強そうな目は、俺が知っている時と何一つ変わらない。
「ですが、エレベーターの所でお金を受け取っていましたよね?」
これが切り札。
だけどソイツは、何も言わずに携帯を取り出した。
そのまま何も言わずに、何処かに電話をかけ始めた。
どうやら、鵜飼に電話したらしいな。
口裏を合わせるつもりなのか?
だが、そんな素振りは全くなかった。
二言、三言話して、携帯を俺に差し出す。
鵜飼と話せという事か。
意図を汲み取り、携帯を受け取った。
『お久しぶりですね。先程は声もかけず失礼しました』
やっぱり気付いていたか…。
「構わない。気付いていたのはお互い様だ」
低い声で話したのは、会話の内容を聞かせたくなかったからだ。
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