第一部 1

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   『貴方の事ですから、あの場面を見れば、あの子を追いかけるだろうとは思っていましたよ』  やはり、エレベーターが閉まる時に見た笑いは、俺に向けられたものだったか。  「仕組んでくれたものだな」  『仕組んだわけではありませんよ。僕は頼まれた事を実行したまでです』  誰になんて、聞かなくても判る。  こんな事を企むような奴は、俺の知る中で一人しかいない。  『面識があった方が良いだろうという、あの方の判断です』  やはりな。  「一応、その配慮には感謝しておく」  『礼ならばあの方に、直接仰って下さい。僕はただの使いですから』  「ふん。まぁいい。暫くアイツを借りるぞ」  『どうぞ。ただし、あまり遅くならないうちに、送り届けて下さいね』  「解っている」  一方的に会話を終了させ、電話を切る。  「疑って申し訳ありませんでした」  携帯を返しながら、俺はソイツに詫びる。  とてもじゃないが、会社の人間には見せられない姿だ。  この俺が年下相手に、頭を下げるなんてな。  「誤解が解けたならいいです。それよりも腕を離してもらえませんか?」  すっかり忘れていた。  だが、まだ離すわけにはいかない。  「私に疑ったお詫びを、させてもらえませんか?私は、一条寺暁と申します」  「相沢悠貴です」  条件反射なのだろうな。  俺が名前を告げれば、悠貴も名前を教える。  聞くまでもなく、俺は悠貴の名前を知っていたけどな。  「お詫びをさせていただけますね?」
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