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『貴方の事ですから、あの場面を見れば、あの子を追いかけるだろうとは思っていましたよ』
やはり、エレベーターが閉まる時に見た笑いは、俺に向けられたものだったか。
「仕組んでくれたものだな」
『仕組んだわけではありませんよ。僕は頼まれた事を実行したまでです』
誰になんて、聞かなくても判る。
こんな事を企むような奴は、俺の知る中で一人しかいない。
『面識があった方が良いだろうという、あの方の判断です』
やはりな。
「一応、その配慮には感謝しておく」
『礼ならばあの方に、直接仰って下さい。僕はただの使いですから』
「ふん。まぁいい。暫くアイツを借りるぞ」
『どうぞ。ただし、あまり遅くならないうちに、送り届けて下さいね』
「解っている」
一方的に会話を終了させ、電話を切る。
「疑って申し訳ありませんでした」
携帯を返しながら、俺はソイツに詫びる。
とてもじゃないが、会社の人間には見せられない姿だ。
この俺が年下相手に、頭を下げるなんてな。
「誤解が解けたならいいです。それよりも腕を離してもらえませんか?」
すっかり忘れていた。
だが、まだ離すわけにはいかない。
「私に疑ったお詫びを、させてもらえませんか?私は、一条寺暁と申します」
「相沢悠貴です」
条件反射なのだろうな。
俺が名前を告げれば、悠貴も名前を教える。
聞くまでもなく、俺は悠貴の名前を知っていたけどな。
「お詫びをさせていただけますね?」
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