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僕が着替え終わるのと、ゆーかの晩御飯の完成を知らせる声は、ほとんど同時だった
おじいさんはまだ仕事で居なかった
今日の晩御飯はカレーとお味噌汁だった
僕の家では、麺類の時以外は絶対お味噌汁が出てくる
お味噌汁の具は、決まって、豆腐、卵、あげさん、ネギだった
ゆーかはようやくおばあさんのお味噌汁の作り方がわかったと言って自慢していた
どうやら、今日のお味噌汁はゆーかが作った物らしい
おばあさんが
「今日のお味噌汁は美味しいわよ~。」
とニコニコしながら言っていたからだ
いつもそんな事言わないのに、あえて今日だけ言って来たんだから
ゆーかが作ったと思わせるように言ったと思うのが自然だった。
思った通り、豆腐がかた崩れしてたり、卵が塊で固まってたりしていた
でも、味はおばあさんのお味噌汁とまったく同じ味だった
僕がお味噌汁をのもうとお椀を左手で持つと、ゆーかはチラチラとこちらを見る
そして僕は、一口すすり、こう言う
「うん!やっぱりおばあさんのお味噌汁は美味しいね」
すると、さっきまで真剣だったゆーかの顔は
パァーっと明るくなり
少し意地悪そうな顔で僕に言った
「えへへへ。実はね、にーにーの食べたお味噌汁はね、ゆーかが作ったんだ。」
僕は少しオーバーに驚いて見せた
「えっ!?そうなの?全然気付かなかったよ!」
ゆーかがえへへと照れながら笑う
「でもね、まだ、卵が塊になってたり、豆腐が崩れたりしてるの。まだまだ修行が足りないのよ」
ゆーかはまだ満足はしていない様だった
僕はそんなゆーかが可愛くなり、頭を撫でてやった
「そんな事は無いよ。とても美味しい。」
「ううん、まだ完璧じゃないの。美味しいだけじゃ駄目なの。ちゃんと『おばあちゃんのお味噌汁』を作りたいの。」
どうやらゆーかは、おばあさんのお味噌汁を作りたいようだった。
ただ、お味噌汁が作れるようになりたいんじゃなく
今まで食べてきたおばあさんのお味噌汁を作りたい
ゆーかはそう思っていた
おばあさんもそれがわかったのか、満面の笑みにうっすら涙を浮かべていた
「そうか。じゃあ、『おばあちゃんのお味噌汁』を完璧に作れた時の最初の試食は僕に食べさせてくれるかい?」
「もちろん!私も決めてたの。最初の試食はにーにーだ。って」
僕はまた頭を撫でてあげた
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