歌が聞こえる三話

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歌が聞こえる。 といってもそれは空気を震わし鼓膜を震わせ更には心を震わせる歌ではない。 私の心の中で流れている歌。 決して誰にも聞こえない歌。   昨日私は歌を失った、いや歌だけじゃない、全ての声を失った。 でも、声を失っても、歌だけは失いたくなかった。 家に残された私に出来ることは歌うことだけだった。お母さんも誉めてくれたこの歌を。 私の人生は失ってばかりだ。 親を失い家を失い、更には声まで失った。 こんな気分を味わうならば手術なんか辞めて素直に苦しんで死ねば良かった。 あの時は声を無くしても生きたいって思ったんだ。 でも今はもう無理。こんな世界にはいたくない。 私は少しふらふらとしながらも屋上に向けて歩き出していた。 途中数人の看護婦、今は看護師っていうんだっけ?とすれ違い変な目で見られた後に呼び止められた。 まぁ仕方ないんでしょうね、患者服着た女の子がふらふら歩いていたら看護師じゃなくたって呼び止めたくなるもの。 それに関してはリハビリですと言い切り私は屋上を目指す。
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